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成人病の運動療法  藤本循環器科・内科講演資料 平成12年11月

key word:糖尿病・高血圧・高脂血症・運動療法

 運動は心臓・肺・筋肉の機能を強化するほか、肥満を改善し、血糖や血圧を下げ、またHDLコレステロールを増やす効果があり成人病の予防・治療に有効です。しかし、重い心臓病、腎臓病、肝臓病、関節障害などがある場合、また、熱、睡眠不足、二日酔いなど体調不良の場合に運動することは危険です。また、糖尿病・高血圧・肥満・高脂血症の場合でも、重症の患者さんでは、運動療法の効果が期待できないばかりでなく、かえって害になります。このように運動は「両刃の剣」の性格を持っていますので、実行にあたっては必ず主治医にご相談ください。

運動療法を行うときの一般的な条件は?

 体調が良好で、以下のような自覚症状や病気がないことが、運動を安全に行うための一般的な条件と考えられています。これ以外の場合(例えば、軽い自覚症状がある、安静時の心電図に軽度の異常がある、血圧や血糖がかなり高いなど)には、あらかじめ試しに軽い運動をしてみて症状や検査結果が悪くならないことを確かめなければなりません(運動負荷試験)。また、運動療法の条件に当てはまる場合でも、中年以降(40−50歳以上)の方は各種危険因子を有している方が少なくなく、なるべく運動負荷試験をしてから、確認された安全域で実際の運動療法を開始するほうが良いでしょう。

運動療法を行う条件

1 自覚症状

2 現在の病気

 

 糖尿病、高血圧症、高脂血症、肥満症の運動療法を行う具体的な条件は?

 

行っても良い

場合によっては行っても良い

行ってはいけない

糖尿病

 

 

 

 

 

 

空腹時血糖 110−139 mg/dl

140−249 mg/dl

250 mg/dl以上

尿ケトン体陽性

尿蛋白陽性

増殖性網膜症

高血圧症

血圧 140−159/90−94 mmHg

160−179/95−99 mmHg

180/100 mmHg以上

心拡大・腎障害

高脂血症

総コレステロール 220−249 mg/dl

中性脂肪 150−299 mg/dl

総コレステロール 250 mg/dl以上

中性脂肪 300 mg/dl以上

 

肥満症

BMI 24.0−29.9

下肢障害

BMI 30以上

具体的な運動方法を教えてください

1 あらかじめ

 それまで運動をしていなかった方はいきなり運動療法を始めるのではなく、1−2週間かけて少しずつ体を動かすようにしてください。運動は準備体操(5―10分)→主運動(20―30分)→整理体操(5―10分)の順に。

2 運動の前後に

 準備体操、整理体操は十分に行ってください。

3 運動の種類:安全で、楽しく、長く続けられるものを

 しっかりと呼吸しながらなるべく全身を使う運動、たとえば、歩行、ジョギング、なわとび、水中歩行、水泳、サイクリング、エアロビクスなどが良いでしょう。なかでも、歩行はいつでも、どこでも、ひとりでも、簡単に、比較的安全に(交通には十分注意してください)できる運動として、運動療法を始める際に理想的なものです。運動療法のため歩行する場合には

などに留意してください。

 なお、息を止め、りきむような運動(重量挙げ、エキスパンダー、ブルワーカーなど)は少なくとも運動療法の初期には好ましくありません。特に、このような運動は血圧をあげるので、高血圧の方にはおすすめできません。

4 運動の強さ:次の日に疲労が残らない程度に

 最高にきつい(これ以上は不可能)運動を100%とした場合、成人病の予防・治療のためには40−60%程度の運動が良いと考えられています。なお、当初は30−40%の運動から始めてください。

 この運動の強さを測る方法を2つ紹介します。あくまでも無理をしないように心がけてください。

1)自覚症状による法(ボルグ スケール)   

楽 − ややきつい」の範囲           

(約50%の強さ)で運動する。

  6

 

  7

 非常に楽である 

  8

 

  9

 かなり楽である

 10 

 

 11

 楽である

 12

 

 13

 ややきつい

 14

 

 15

 きつい

 16

 

 17

 かなりきつい

 18

 

 19

 非常にきつい

 20

 最高にきつい

 年齢

 50%強度運動時の心拍数 

 (1分間)

 20才代 

 126−130

 30才代

 121−125

 40才代

 116−120

 50才代

 111−115

 60才代

 106−110

 

2)心拍数(脈拍)による判断法

腕時計式の脈拍計も市販されています.

 

 

 

5 運動の時期と時間

 一般に空腹時や食直後を避け、食後1−2時間以後に行うのが良いでしょう。飲酒後や入浴後は体をリラックスさせるべきときで、体の血流は運動筋以外の必要臓器に主に分布しているので、運動は避けましょう。夕方から夜は夕食前が望ましいですが、夕食後ならば休憩の後、軽い運動にとどめましょう。

 一回の運動時間は10分程度からはじめ、なるべく30分以上行うようにしましょう。

 週に2回以上、なるべく3回行いましょう。しかし、整形外科的障害の予防から週5回以内にしましょう。

 歩数でいうと、1日に8000歩以上必要ですが、最初は従来の歩行量の1.5倍(5000―6000歩)程度から始めましょう。

 運動は長く続けて初めて効果がでてきます。糖尿病や肥満症の場合でも、運動療法の目的は、必ずしも毎回の運動で直接ぶどう糖や脂肪を燃やすことではありません。長期的な運動で筋肉量や筋肉を流れる血液の量を増やし、またその他全身の細胞を活性化することでエネルギー消費を円滑にすることが目的です。

環境として高温多湿は心事故・熱中症が、寒冷は虚血性心疾患や脳卒中が多くなりますので、5から27度の範囲・湿度70%以下で行いたいものです。

 

 運動強度設定法

1.心拍数(HR)による設定

1)最高心拍数の6580%

a)Karvonenの式による設定

設定HR=(年齢別最高HR一安静HR)×k+安静HR

k:定数0.50.7

3)100120/

2.酸素摂取量による設定

1)換気閾値の80100%

2)最高酸素摂取量の5070

3.自覚症状による設定

1)病的症状の出現レベルの80%

2)Borg指数の1113程度

4.心電図による設定

1)ST変化の出現レベルの80%

2)不整脈発生レベルの80%

 

 中高年齢者に適する運動と道さない運動

1.適する運動

ウォーキング(6km/時間以下)

ハイキング(標高2,000m以下,4km/時間以下)

軽いランニングまたはジョギング(過体重の者は禁忌,アスファルトの道路は避ける,8km/時間以下)

サイクリング(18km/時間以下)

水泳

ダンス

テニス(ラリーを中心に行う)

卓球(軽いラリー)

2.適さない運動

高度の技能を要する運動,競技的性格の強い運動

ストレスの多い運動,筋力を要する運動

無酸素的負荷およびインターバルトレーニング

重量挙げ,格闘技,フェンシング,ウインドサーフィン

器械体操,スカッシュ,スキー滑降

循環器病の症状のある方に

肥満の人へ

肥満は、消費エネルギーより摂取エネルギーが多すぎるために生じるので、長時間の運動によってエネルギーを消費すれば改善します。脂肪が効率的に燃焼するには最低20分の運動が必要とされていますから、それ以上の運動を心がけましょう。

強い運動を短時間行うよりも、軽い運動を長時間する方が、疲労感が少なく、トータルでは消費エネルギーが多くなることをよく理解しておいてください。

ジョギングは足首、ひざ、腰に大きな負担がかかります。肥満者は腰やひざに障害が起こらないようにする注意が大切で、走行より歩行が無難です。歩行が続けられないようなときは、水中歩行や自転車こぎなど腰やひざへの負担が少ない運動にとどめることが肝心です。

運動だけで減量するのは至難の業ですから、節食と運動の両方をうまくコントロールしていかねばなりません。例えば、40分間の早足歩行で消費するエネルギーは約160キロカロリー(バナナ1本分)にすぎません。(体重1kg減らすのに約7000calの消費が必要。)

体重が減らなくても皮下脂肪の減少やウエストの周囲が細くなっておれば運動の効果は出ています。運動の併用は食餌療法単独に比べ脂肪を中心とした減量になるようです。

高血圧の人へ

運動している最中の血圧は、安静時よりかなり高くなっています。中でも、息をこらえて力を入れる重量挙げや腕相撲のような運動は血圧を著しく上昇させ、高血圧の人には勧められません。高血圧の人には、できるだけ自然の呼吸で全力(最大酸素摂取量)の40〜50%に相当する、やや軽度の有酸素運動がよいとされています。

この強度は、やや汗ばむ程度で、人と会話しながら続けられることから「ニコニコペース」と呼ばれており、長期的には血圧を下げる効果があります。適度な運動療法によって、10週後に最高(収縮期)血圧が約10(mmHg)、最低(拡張期)血圧が約5(mmHg)下がり、運動能力(最大酸素摂取量)は10―15%上がるといわれています。

ただし、定期的な血圧チェックとかかりつけの医師を受診することを忘れないでください。寒冷時や過労の時は運動は避けましょう。

高脂血症の人へ

有酸素運動を長時間続けると脂肪が燃焼し、血液中の中性脂肪であるトリグリセライドが低下しますし、”善玉コレステロール”(HDLコレステロール)を増やす効果があります。さらに、運動にはさまざまな面で動脈硬化を防ぐ作用がありますから積極的に続けてください。

ただし、強すぎる運動は遊離脂肪酸の増加により不整脈や狭心症発作を誘発する危険性があります。また、すでに虚血性心臓病が潜んでいる場合がありますので、運動中に不快な胸痛を感じたら、かかりつけの医師に相談してください。

糖尿病の人へ

糖尿病の人には運動療法が有効で、筋肉や脂肪組織のインスリンに対する感受性がよくなり、食事療法だけでは得られない効果があります。しかし、この改善も運動中止後3―4日で減少し始め、1―2週間で消失します。つまり継続が必要です。

運動は軽度の有酸素運動、つまり全力(最大酸素摂取量)の40-60%の運動で効果があります。血糖値、グリコヘモグロビン値があまり高くない状態では、食後に適度の運動をすれば、食事による血糖の上昇が抑えられ、1日を通じて血糖値が改善します。

ただし、網膜症、腎症、自律神経障害など糖尿病の合併症があるか、コントロール不良のときは、運動がかえってそれらを悪化させる場合があります。運動をする前にかかりつけの医師に相談してください。

糖尿病の運動療法は脂肪の利用率を高めることも目的にしています。有酸素運動を1日30分、軽・中等度の強さで週3日以上続けましょう。

インスリンや経口血糖降下治療を受けている患者さんは、低血糖の危険性があります。運動は食後1〜3時間後にしてください。

糖尿病では足の障害(神経障害、循環障害、水虫など)が起こりやすいので、フットケアといって足への注意も必要です。足の感覚が鈍っていないかチェックし、さらに足の皮膚表面に色の変化がないか、水虫になっていないかを確かめましょう。

靴はきつくなく、はきやすい通気性のよいもの、靴下は吸湿性の高いものを選び、汗ばんだらはき替えます。体の抵抗力が落ち、感染しやすくなっている場合もありますから、体の清潔を心がけ、お風呂ではていねいに洗ってください。

虚血性心疾患の人へ

運動能力を増加させ社会復帰を促進し、QOLを高めるのが目的。不安定狭心症・心不全、日常の労作で狭心症の出る人は禁忌。運動負荷試験で得られた最高心拍数の65―80%程度が運動に良い。歩行ないし速歩を行う距離は、退院1週間は1km、次の1週間は2km、それ以後は漸次増加させる。ウオーミングアップ5―10分、主運動20―30分、クーリングダウン5―10分(ストレッチ)を1クールとして行う。維持期になっても競技は行わない。


運動といっても、むずかしく考える必要はありません。強い運動より、やや弱めの運動を1日30分以上、「ニコニコペース」でこなせばよいのです。たかが運動ぐらいと思われるかもしれませんが、されど運動です。

とにかく楽しみながら、気長に続ければ、必ず効果があることを保証します。